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幻想と現実

小さい頃からいろいろなことをやらせてもらえる子供が多くなった。スイミング、ピアノ、絵画、書道、サッカー、野球、テニス、空手、柔道、英会話など数え上げればきりがない。親の立場からすると、一度始めたことはなんとかある程度までやらせたいと思うかもしれない。
しかし、誰にも向き不向きがあることを理解していないと無駄なお金と時間をかけていることになりかねない。出来ないことを見つけ、この分野では才能がないからあきらめることが将来を見極める大切な判断となる。これも出来ない、あれも向いてないと一つずつ可能性を捨てていく。それが己を知ることになるし、それが大人になっていくことだ。
子供には無限の可能性があるというのは美辞麗句とはまでは言わないが、すべてが神業のように出来るわけがない。人間、出来ることより出来ないことの方が多いのだ。いろいろ出来ないこと、苦手なことを見つけて振り分けて残ったモノが自分の居場所である。誰しも簡単には、イチローや浅田真央、石川遼にはなれないのだ。彼らはチャレンジしたものと才能が幸運にも若い時期に一致していた。
誰もが、たいした努力もなしにあれも出来る、これも出来るはずだと勘違いしているところに現代社会の危うさがある。その誤解に拍車をかけているのが携帯やネットだろう。それらは、小さな社会の窓口から大きな社会をのぞかせてくれて幻想的な可能性の夢を見せてくれる。しかし、世の中はマンガや映画のようなストーリー展開というわけにはいかない。
いろいろなことをやってみてこれなら何とか続けられるかもしれない。そういったものが見つけられればいいのである。親も自分の子供を客観的に見るべきで、彼らの才能を見極める冷静な判断力が必要だろう。「好きこそものの上手なれ」が当てはまるケースが珍しいのだ。

本当のチャレンジは他人に与えてもらうものではない。自分で戻ることのできない人生の航海に出航することだ。簡単に帰れるのはチャレンジではない。苦しくてつらくて、幾度もあふれ出る涙をこらえて、遠く故郷を思えども帰る場所などない、頼れるのも自分だけという状況を乗り越えて初めてチャレンジと言える経験となり、その人の宝となる。親もそこまで我慢する覚悟が必要だ。子供が大変そうだったらいつでもすぐに救いの手をさしのべるのは、百害あって一利なしだということを肝に銘じた方がいい。
私事で恐縮だが、15才の時に試験を受け、アメリカに留学が決まった時はなんでも自分でせざるを得なかった。それが当たり前だった。パスポートを取得するにも自分で自転車で前橋県庁まで行って申請し、後日またそれを自転車で受け取りに行く。パスポートに貼り付ける写真も一人で写真館に行かなければならない。当時はイエローカードといってさまざまな医療処置をしてもらわないと留学ビザが取れなかった。一人で自転車で前橋中央病院まで行って破傷風や日本脳炎、天然痘などの予防接種を受けなければならなかった。
オリエンテーションを受けるために東京の代々木オリンピックセンターまで何度も足を運ばなければならなかった。経費を最小限に抑えるためにもちろん鈍行、2時間かかって新宿まで行くのでそこでも英語の勉強が出来た。朝の5時の始発に乗って明治神宮のベンチで英語の勉強をまた2時間くらいしてからオリエンテーションを受けた。それでも英語力が足らないと扱きおろされた。
当時の為替レートは1ドル250円くらい。家族が渡米用に工面してくれたお金が10万円。ドルに換算すると400ドル。現在で言えば4万円程度の価値だ。それが日本の国際的な位置づけだった。節約しても必要経費や何やらで400ドルは2ヶ月もたなかった。2ヶ月後には自分で仕事を見つけていた。

「かわいい子には旅をさせよ」という名言がある。今はそれをかわいい子にはすべて準備万端にしてあげて、お金を持たせ、さらにはクレジットカードや世界対応の携帯電話まで持たせて旅行させてあげるのごとく勘違いしている親が多い。江戸時代までは一度、旅に出ることは再び戻ることのない死を覚悟してからの旅であった。そしてひとたび旅から無事に生還できた時人生観もドラスティックに変わり、本当の意味での人生を歩み始めるのだ。




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